社員の在宅ワークを検討する場合の注意点

文書作成日:2018/12/13

坂本工業では、営業職の従業員から「自宅でも仕事をしたい」という相談があった。柔軟な働き方は認めたいと思うものの、単純に許可していいものか迷い、社労士に相談することにした。

営業部のある従業員から自宅でも仕事をしたいという要望が寄せられました。理由を尋ねてみると、配偶者が1週間入院することになったそうで、その間、子どもの保育園の送迎を始めとし、育児全般を1人でやる必要があるとのことでした。

なるほど。少し大変な状況になるので、効率的にお仕事をしたいということですね。

はい。当社の営業職は客先に出向いてご要望をお聞きすることが中心ですが、事務所で提案書や企画書、見積書を作成するといった事務作業も多く、また、この従業員は営業用のパンフレット作成に携わっているので、この期間はその作業にも集中する期間に当てたいと考えているようです。このような業務であれば、出社しなくても問題ないと考えています。もちろん、自宅から客先に直接出向いて仕事をし、そのまま自宅に戻るといった日があってもよいと思っています。

そういう点ではこの従業員を手始めに、自宅でも仕事ができるような環境を整えることで、今後、育児や介護等と仕事の両立につながるのではないかと考えています。

そうですね。働き方改革でも在宅勤務を始めとしたテレワーク(パソコンなどのICTを活用した時間や場所にとわられない柔軟な働き方)は、柔軟な働きやすい環境の整備の対応策の一つとされており、実際、2018年2月22日に「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(以下、「ガイドライン」という)が公開されています。

ガイドラインにはどのようなことが書かれているのですか。

このガイドラインは、会社と雇用契約を結んでいる人が、事業場外で業務をするときの留意事項を整理したものです。事業場外での勤務にも労働基準関係法令の適用があることを前提に、事業場外勤務で発生する課題への対応策を示しています。実は、以前から「在宅勤務」に関するガイドラインは存在したのですが、今回策定されたものは事業場外に範囲を拡大し、(1)在宅勤務、(2)サテライトオフィス、(3)モバイル勤務の3つに分類をしています。

確かにここ数年、喫茶店に入るとパソコンに向かって仕事をしていると思われるサラリーマンの姿をよく見かけるようになりました。これが(3)のモバイル勤務というものですね。

はい、その通りです。他にも、自宅や通勤途中の場所に仕事ができる環境を用意することで、通勤時間を短縮することができるものとして(2)のサテライトオフィスがあります。自宅や移動中よりも作業環境が整った場所で働くことができる点がよいのではないかと思います。

確かにサテライトオフィスは、集中して仕事ができそうなイメージがありますね。

そうですね。ガイドラインではこのような分類をした上で、通勤時間や出張旅行中の移動時間中に仕事をしたときには、労働時間についてどのように考えるかといったことも記載されています。

かなり幅広い話になってきますね。

確かにそうですね。少し話が脱線してきましたので、当初の在宅勤務の話に戻しましょう。(1)の在宅勤務を行うときの検討ポイントには、労働時間制度をどうするか、どのように労働時間を把握するのか、残業の指示はどのような方法で行うのかといったものがあります。もちろん、会社で働いているときと同様に休憩時間も取る必要がありますし、在宅勤務に特有な論点として、勤務時間中に私用で業務から離れるいわゆる「中抜け時間」をどのようにするかを考える必要も出てきます。

やはり、現在行っている仕事を、そのまま明日から自宅でやるという簡単なものではなさそうですね。

はい。そもそも何のために在宅勤務をするかという目的の確認から、在宅勤務対象者の設定、在宅勤務を認める頻度等、決めておくことが必要になります。その他にも、パソコンの準備やインターネットの接続方法、セキュリティー対策といった環境の整備も必須です。このようルールを策定する中で、ペーパーレス化や業務の効率化の方法が見えてくることもあります。

なるほど。全社で取組もうとすると、かなり大掛かりな話になるので、すぐに取組むのは難しそうだということが分かりました。今回は時間的な問題もあるので、試行という形で相談のあった営業部の従業員から始めてみようか。

そうですね。この従業員は勤続年数も長く、自律的に業務を回すことができている従業員ですから、会社で行っている業務を自宅でやるということのイメージも持てます。現在使用しているノートパソコンから、不要な個人情報を削除してもらい、インターネット環境も、会社が契約し営業に使ってもらっているスマートフォンを利用して接続することにすれば、本人の負担は出てきません。労働時間も始業・終業の連絡を電子メールでもらうことでひとまずやってみることにしたいと思います。

今回の方は、もしかしたら在宅勤務にチャレンジするのに適した従業員だったのかも知れませんね。

そうですね。だからこそ、木戸部長が対応を検討したいと思ったのかも知れません。

実は、無理に制度の導入をして会社に迷惑をかけるようであれば、1週間、年次有給休暇を取ることも考えているとの話でした。会社にとって重要な営業先も担当しているので、何とか本人の希望をかなえたいと相談させていただきました。いずれ多くの要望が出てくる可能性があるテーマですので、それであればまずはチャレンジをしてみたいと思っていたのです。周囲の従業員からも信頼のある従業員ですので、今回は本人と部署の従業員を集めて背景と趣旨を説明し、実施してみることにします。

ぜひ、在宅勤務を行ったメリット・デメリットを聞き、範囲を拡大して実施できるように挑戦してみましょう。

>>次回に続く

事業場外の勤務は、会社の労働時間に関する管理が十分に行き届かず、長時間労働になるリスクもはらんでいます。ガイドラインでは、以下のような手法を示して、長時間労働による健康障害等の防止を図ることを勧めています。

  1. メール送付の抑制

    役職者等から時間外、休日又は深夜におけるメールを送付することの自粛を命ずる。
  2. システムへのアクセス制限

    外部のパソコン等から深夜・休日はアクセスできないよう設定する。
  3. テレワークを行う際の時間外・休日・深夜労働の原則禁止等

    業務の効率化やワークライフバランスの実現の観点から、時間外・休日・深夜労働を原則禁止としたり、許可制とする。
  4. 長時間労働等を行う従業員への注意喚起

    長時間労働が生じるおそれのある従業員や、休日・深夜労働が生じた従業員に対して、労働時間の記録や、労務管理システムを活用して注意喚起を行う。

■参考リンク

厚生労働省「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/guideline.html

 

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。