問題ある就業規則の規定例

 貴社の就業規則は、無料でダウンロードしてきた就業規則を使ってませんか?
10人以上の労働者を雇っている会社さんは、必ず就業規則を作成して労働基準監督署に提出をする義務があります。ネットを見れば無料でモデルの就業規則がダウンロードできますが、無料でダウンロードできるものは、大抵労働者が有利な就業規則で作られています。
 せっかく就業規則を作ったり改訂するなら、問題社員から会社を守る規程に変えてみませんか。

以下、無料の規定によくある例を取り上げてみました。

 

(問題のある規定例 モデル就業規則)ーーーーーーーーーー

(目的)

第●条 この就業規則(以下「規則」という。)は、労働基準法(以下「労基法」という。)第〇条に基づき、    株式会社の労働者の就業に関する事項を定めるものである

2 この規則に定めた事項のほか、就業に関する事項については、労基法その他の法令の定めによる。

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2 モデル就業規則では、「この規則に定めた事項のほか、就業に関する事項については、労基法その他の法令の定めによる。」と記載しており、同様の規定をしている就業規則も散見されます。しかし、労働基準法第13条により、労働基準法に違反し、基準に達しない労働条件を定めた場合、労働基準法通りの労働条件となると規定しているが、パートタイム・有期雇用労働法(旧パートタイム労働法)、雇用均等法、育児介護休業法、高年法、派遣法などは行政規制法に過ぎず、これらの定めに違反する規定があったとしても無効となるだけであり、当然にこれらの法令の規定通りの労働条件となるのではない。さらに、これらの法令において規定するように求められている内容が、仮に規定されていなくても、是正指導や公表などの対象とはなるが、当然にこれらの法令の規定通りの労働条件となるものではない。「当然に労働条件となるものではない」という観点は重要であり、裁判になった場合、損害賠償に留まるのか、労働条件として将来に向けて払い続けることを判決で認められるのか、大きな違いが発生します。もちろん、これらの法令が求める規定を整備すべきではありますが、のモデル就業規則のように、行政規制法に過ぎない法令の定めについても当然に労働条件となるかのような規定は避けた方が良いでしょう。

 

(問題のある規定例 モデル就業規則)ーーーーーーーーーー

(休職)

第 条 労働者が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職とする。

① 業務外の傷病による欠勤が  か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき:   年以内

② 前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき:必要な期間

2 休職期間中に休職事由が消滅したときは、原則として元の職務に復帰させる。ただし、元の職務に復帰させることが困難又は不適当な場合には、他の職務に就かせることがある。

3 第1項第1号により休職し、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とする。

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1 休職に入る前提となる長期欠勤要件について、モデル就業規則のように「業務外の傷病による欠勤が  か月を超え」とのみ規定している場合には、欠勤は連続している場合にのみ休職となるため、欠勤と出勤を繰り返しているケースでは休職にはなりません。そこで、長期欠勤要件において、断続的な欠勤を通算することを規定する必要があります。休職に入るための欠勤を数か月としている会社もあるが、数か月とした場合、休職にはなかなか入りません。長期欠勤要件は、長期にわたって自宅療養しなければならない傷病であるのか、インフルエンザなどのように一時的なものですぐ回復する傷病なのかを見分けるための要件に過ぎないため30日で十分であると考えます(通算規定を入れる場合、「1か月」とすると通算何日となるのか疑義が発生するため、「30日」と定めた方が明確と考えられます。)。

2 復職基準について、モデル就業規則のように「休職事由が消滅したとき」のみ規定されていたり、「傷病が治癒したとき」のみ規定されている場合は、裁判所は、完全に傷病が治癒していなくても、「他の軽易な職務であれば従事することができ、当該軽易な職務へ配置転換することが現実的に可能であったり、当初は軽易な職務に就かせれば、程なく従前の職務を通常に行うことができると予測できるといった場合には、復職を認めるのが相当である。」という判断をします。そのため、主治医が「半日勤務であれば復職可」といった診断書を作成し、本人が復職を求めるケースが増えている。「所定勤務日かつ所定の始業終業時刻による定時勤務」できることは最低限度の基準と思われるので、この点は基準として明示し、上記のように裁判所によって不当に基準を引き下げられないように防衛すべきです。また、今回、原職を、原職で求められていた能力水準で行うことの基準も明示しました。「求められていた能力水準」を100%できる状態に回復したのかどうかは認定に幅があることから、「求められていた能力水準」で仕事をさせると症状が悪化することを主治医が認めるケースでなければ、この基準だけで復職を認めないとするのは慎重に考えるべきです。

(問題のある規定例 モデル就業規則)ーーーーーーーーーー

(適用範囲)

第●条  この規則は、    株式会社の労働者に適用する。

2 パートタイム労働者の就業に関する事項については、別に定めるところによる。

3 前項については、別に定める規則に定めのない事項は、この規則を適用する。

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  適用範囲において、このような規定をしている場合、例えば、労働契約法第18条1項に基づき、通算5年を超える有期雇用者が無期転換を申し出て、期間の定めのない契約に転換した場合、原則は、無期転換後も、契約期間を除いては有期雇用者の労働条件のままであるにもかかわらず、正社員用の就業規則の適用範囲を見て、「私は    株式会社の労働者であり、正社員用の就業規則が適用されるはずだ」と主張し、紛争となるリスクが存在します。(労働契約法第18条1項は、「別段の定め」があれば、無期転換後はその別段の定めに基づく労働条件となると定めており、適用範囲がいい加減になっている正社員用の就業規則は、この「別段の定め」と解釈されえます。)

  したがって、適用範囲については、明確に正社員にのみ適用されることを規定すべきである。ただ、「正社員」という定義には、正規雇用であり期間の定めがないことしか含まれていないので、「正社員」に適用すると規定するのみであれば、前述の無期転換者も正社員に含まれるのではないかと争われる余地が残ります。そこで、正社員の採用手続を経て採用した者と限定した上で、さらに、他の雇用形態の労働者は適用除外となることを併せて規定すべきです。

2 適用除外の規定は、有期雇用者、パートタイム・アルバイトだけでなく、前述のような労働契約法第18条1項に基づいて無期雇用者に転換した者なども明記すべきです(無期転換者は、本人の申出によって労働契約法第18条1項に基づき転換する場合と、通算5年を超えて会社との間で無期の契約書を新たに締結することで合意に基づき無期となる場合もありうることから、両方を明記します。)。その他、派遣法においても、受入期間の制限に違反するなどの違法な派遣の受け入れがあった場合に、派遣労働者の申出により、派遣先との間に直接の雇用関係が発生する労働契約申込みなし制度(派遣法第40条の6第1項各号)が存在するため、直接雇用となった派遣労働者が「私は    株式会社(派遣先)の労働者となったのだから、正社員用の就業規則が適用されるはずだ。」という主張をされないように適用除外に明記する必要があります。

最後に

以上は、一例に過ぎません。
残業代の請求が3年に延長をされたことを機会に弁護士に相談する労働者が増えました。

また、スマホの登場により経営者からの労務相談が10年前の3倍以上に増えています。
スマホが発売される前は、給与計算・社会保険の手続き業務を依頼される経営者さんが9割でしたが、
この15年で逆転し今や労務相談顧問を依頼する経営者さんが9割です。

経営者さんに一言。
今まで大丈夫だった、うちの社員はみんないい子だと言うのは残念ながら一昔前のお話です。
今までの性善説での経営感覚は捨てた方が良いというのが社労士の仕事をしていると肌で感じます。
人を雇って働いてもらうのであれば、まずはホワイト企業を目指さないと人の定着は難しいです。
特に若い子を雇いたい会社は中小企業であれ、働きやすい環境を作ることは必須条件です。

就業規則は、社員に会社の就業ルールを守ってもらうものです。
日頃からもしものリスク(同一労働同一賃金、未払残業代、解雇、懲戒等)に備えましょう。