最低賃金額を見直す際の注意点

 先月、地域別最低賃金額改定の目安が発表され、すべての都道府県において28円引上げとなる旨の答申があった。木戸部長は自社の嘱託社員の賃金が最低賃金を下回るのではないかと気になり、その確認方法を社労士に尋ねることにした。

 最低賃金が28円引上げとなる旨の答申がありましたね。もしこの引上げ額となると、当社の嘱託社員が最低賃金を下回るおそれがあることから、早めに確認しておきたいと思います。そのため、今日は、その確認方法を教えてください。

 わかりました。まず、最低賃金の対象となるものは、毎月支払われる基本的な賃金とされています。すべての手当を含めることはできず、実際に支払われる賃金から以下の1~6の賃金を除外したものが、最低賃金の対象になります。

  1. 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
  2. 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
  3. 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
  4. 所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など )
  5. 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
  6. 精皆勤手当、通勤手当および家族手当

 精皆勤手当、通勤手当、家族手当は対象にならないのですね。

 この3つは勘違いしやすいですね。そして、最低賃金の対象となる賃金を1ヶ月の平均所定労働時間で割り、最低賃金額と比較します。

 なるほど。パートタイマーの中に、基本給は時間給、住宅手当は月給で支払っている人がいます。この場合、どのように計算するのでしょうか?

 住宅手当を時間額に換算し、それと時間給である基本給を合計したものと最低賃金額を比較します。例えば、基本給(時間給)980円、住宅手当6,000円、1ヶ月平均所定労働時間が150時間の場合、以下のようになります。
 住宅手当の時間換算額 6,000円÷150時間=40円
 合計の時間換算額   基本給980円+住宅手当の時間換算額40円=1,020円
 この1,020円が最低賃金額を下回っていないかを確認します。

 わかりました。該当しそうな人は、一度、計算してみます。
 当社の賃金計算期間は、16日から翌月の15日です。各都道府県で発効日が異なっていると思いますが、もし発効日が10月1日の場合、賃金計算期間の途中に発効日があります。この場合、来月(10月16日)から賃金を引き上げれば、問題ないのでしょうか?

 賃金算定期間の途中に発効日がある場合、発効日以降は改定後の最低賃金額以上の賃金を支払う必要があります。そのため、発効日が10月1日の場合、10月1日以降については必ず変更が必要です。

 9月16日から金額を変更しておいた方が、ミスもなく良さそうですね。

 確かにそうですね。今回は大幅な引上げが予想されるため、確実に確認をお願いします。確認の際、不明点がございましたら、ご連絡ください。

>>次回に続く

 


 中小企業の生産性向上を支援し、事業場内でもっとも低い賃金(事業場内最低賃金)の引上げを図るための制度として、「業務改善助成金」が設けられています。これは、生産性向上のための設備投資(機械設備、POSシステム等の導入)などを行い、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合、その設備投資などにかかった費用の一部が助成されるというものです。助成率は以下のようになっています。

 【事業場内最低賃金900円未満】
 4/5(生産性要件を満たした場合は9/10)
 【事業場内最低賃金900円以上】
 3/4(生産性要件を満たした場合は4/5)
  ※申請コースごとに、引上げ額、引き上げる労働者数、助成の上限額が定められています。

 今年度の申請締切は2022年1月31日までで、予算の範囲内で交付するため、申請期間内に募集を終了する場合があります。また、8月から特例的な要件緩和・拡充が行われました。活用にあたっては要件を事前に確認しましょう。

■参考リンク
厚生労働省「必ずチェック最低賃金!使用者も労働者も」
https://pc.saiteichingin.info/
厚生労働省「[2]業務改善助成金:中小企業・小規模事業者の生産性向上のための取組を支援」

 

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。