パートや契約社員に賞与や退職金は同一労働同一賃金で必要になるか?(最新判例)

 

 坂本工業では、現状、パートタイマーに賞与や退職金を支給しないことにしている。今回、パートタイマーの採用にあたり、同一労働同一賃金に関して問題がないかを社労士に確認することにした。

 先日、パートタイマーを募集したところ、弊社の条件に合致する人がいて、早速、来週から出社してもらうことになりました。事前に働く時間や日数、時給等は決め、賞与や退職金は支給しないことにしたのですが問題はありませんか?

 どのような仕事をしてもらう方を採用されたのですか?

 総務部の配属で、年末調整のお手伝いをしてもらう予定です。例年は人員を増やさずに乗り切ってきましたが、今年は年末調整が複雑になったこと、新型コロナウイルス感染症の影響で、助成金の手続きや社会保険関連の手続きが多くなり総務の人手が足りないことから、短期間のパートさんを募集したのです。

 間接部門の人員を増やすことは迷うのですが、まだまだ電子化できずに、大部分が紙での処理をしているため、紙の配布や回収、チェックの作業が多いのです。来年には電子化をしたいと考えています。

 なるほど。その業務内容であれば、契約は短期間になりそうですね。

 はい、来年1月末までの短期契約を予定しています。ただ、優秀な方であれば、他の業務にも就いていただくことも考えているので、労働条件通知書では契約更新について、「更新することがありうる」と記載しました。この数ヶ月であれば、賞与や退職金の支払いも不要かと思っていたのですが、実際に契約更新をするとなれば、同一労働同一賃金の観点から必要になってくるのかな、とも思っていました。

 おそらく、新聞やテレビ報道でご覧になったかと思いますが、10月に、大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件、日本郵便事件(佐賀、東京、大阪)という5つの最高裁判決が言い渡されました。これはいずれも、正規労働者と非正規労働者の待遇差について判断したものであり、同一労働同一賃金に関する判決です。

 確かに見ました。アルバイトへの賞与、契約社員への退職金、いずれも支給しなくても不合理とは言えないとされたものですよね。

 はい、そうです。ただし、この判決により「非正規=賞与・退職金の支給は不要」と判断することはとても危険です。最高裁判決ですので、当然、人事労務管理に大きな影響を及ぼしますが、あくまでもこれらは個別の事案について判断されたものです。例えば、大阪医科薬科大学のアルバイトは、勤続年数が3年2ヶ月程度であり、そもそも雇用期間の上限が5年と定められていました。

 なるほど。無期契約のような長期の雇用は想定されていなかったということですね。

 さらに病気で1年以上勤務しておらず、また正社員との職務内容もかなり異なり、正社員に人事異動があるところアルバイトにはなかったというように、同一労働同一賃金の問題を検討する重要ポイントでいくつも違いがあったのです。

 なるほど。短期間ではないパートタイマーを雇うときや、職務の内容が正社員と変わらないようなパートタイマーを雇うときに、安易に当てはめることは危険ということですね。

 おっしゃるとおりです。メトロコマース事件では、契約社員への退職金の支給について争われたものです。こちらの原告は、契約更新することで10年を超えるような勤続期間になっていた契約社員です。結論は退職金が支給されなくても、それが「不合理であるとまで評価することができるものとはいえない」とされました。

 こちらも安易に事案に当てはめてはならないということですか?

 そうです。こちらの事件では、正社員と契約社員の業務の内容はおおむね共通していたようですが、正社員は販売員の不在時の代務業務を行う等のエリアマネージャーの業務があり、業務に伴う責任の程度を含めると、職務の内容に一定の相違があると判断されています。その他にも判断された様々な考慮した基準がありますが、もう一つポイントになっているものが登用制度です。

 登用制度ということは、契約社員から正社員になる機会ということですか?

 はい、その通りです。この登用制度は大阪医科薬科大学事件(アルバイトから契約社員、契約社員から正社員への登用)にもあるのですが、職務遂行能力を高めていけば、賞与や退職金が支給されるような雇用形態にも変わることができたというのがポイントとなっています。ちなみに、登用制度を作ったのみで実際には運用されていないような状況であれば、今回の判決では考慮した基準に取り上げられなかったかもしれません。

 実際に正社員や契約社員に登用された実績があったということですね。当社でも登用制度の整備と運用については考えてみることにします。

 そうですね。まずは職務の内容をしっかりと分析することや、雇用期間をどうするかということを考えつつ、登用制度を整備していただくとよいかと思います。

 


 3つの日本郵便事件では、扶養手当や年末年始勤務手当等の各種手当等が争点の中心となりました。結果、各種手当については、手当ごとの趣旨、性質、目的から不合理かを判断するとし、正社員に支払われる手当が契約社員に支払われないことは不合理であると判断されました。手当については上記で取り上げませんでしたが、確認するとよいでしょう。

■参考リンク
・大阪医科薬科大学事件(令和2年10月13日 最高裁判所第三小法廷判決)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/767/089767_hanrei.pdf
・メトロコマース事件(令和2年10月13日 最高裁判所第三小法廷判決)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/768/089768_hanrei.pdf
・日本郵便 大阪事件(令和2年10月15日 最高裁判所第一小法廷判決)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/773/089773_hanrei.pdf
・日本郵便 東京事件(令和2年10月15日 最高裁判所第一小法廷判決)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/772/089772_hanrei.pdf
・日本郵便 佐賀事件(令和2年10月15日 最高裁判所第一小法廷判決)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/771/089771_hanrei.pdf

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。