年5日の有給休暇の取得義務化へ

2019年4月より段階的に施行される改正労働基準法の中でも、すべての企業が対応しなければならない事項として、年次有給休暇(以下、「年休」という)の取得義務があります。今年9月には労働基準法施行規則が改正・公布され、また通達も発出されたことにより、具体的に求められる対応が明らかになりました。そこで今回は、来春より始まる年5日の年休の取得義務への対応について解説します。

 

 

 今回、2019年4月より年休の取得義務がスタートします。これは大企業、中小企業の企業規模に関わらず適用されます。制度が導入された背景には、年休の取得率が低迷し、いわゆる正社員の約16%が年休を1日も取得しておらず、また年休をほとんど取得していない従業員については長時間労働の比率が高いということがあります。本来、従業員の請求に基づき取得させることとなる年休ですが、確実に年休の取得が進む仕組みづくりを狙いとして今回、制度が導入されます。また、2018年7月24日に「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(以下、「大綱」という)の変更が閣議決定されましたが、この中で過労死等防止対策の数値目標として、以前から2020年までに年休の取得率を70%以上とすることが掲げられていました。そして、年休の取得日数が0日の労働者の解消に向けた取組みを推進することが、新たに追加されました。

 

 

 労働基準法では、原則として、入社日から6ヶ月間勤務した従業員に10日の年休が付与され、その後は、1年ごとに勤続年数に応じた日数が付与されることになっています。この年休の日数が10日以上付与される従業員(※)に対し、2019年4月からは、付与した日(基準日)から1年以内に、会社が取得する日を指定して従業員に5日を取得させることが求められます。また、取得義務の対象となるのは、年休の日数が10日以上付与される従業員であることから正社員だけでなく、所定労働日数が少ないパートタイマーなどについても、所定労働日数や勤続年数によっては対象者となることがあります。

 なお、従業員が自ら取得したものや労使協定による計画的付与で取得した日数は取得義務の5日から除かれる(指定する日数が減る)ため、継続的に全従業員の取得率が高いような企業であれば、事前に会社が取得する日を指定することなく、従業員が請求する日のみでの運用も考えられます。

※管理監督者も含まれます。

 

 

1.取得日を指定する際のポイント

 

 年休は、従業員が取得する日を指定して取得することが原則ですが、今後は5日の取得義務を履行するためには、会社が時季指定をすることもあり得ます。その際には、まずは従業員に取得する日の意見を聴き、その意見を尊重した上で取得する日を指定することが求められています。

 通達では、その方法として、従業員の意見を聴いた上で、年休取得計画表を作成し、この計画表に基づいて実際に取得させること等が考えられるとしています。従業員個人単位で申し出てもらう方法、部署で年休の取得が重ならないようにするために部署単位で申し出てもらう方法などがあります。

 

2.年休の基準日よりも前に付与する際の特例

 

 年休の付与は、法令どおりに付与する方法だけでなく、例えば4月1日のように統一した基準日を会社で設け、付与する方法があります。例えば、4月1日に入社した際には、6ヶ月経過後の10月1日に付与を行うものの、次の付与は翌年10月1日ではなく、翌年4月1日に前倒しで付与するというようなケースが考えられます。このような場合、下図の上段で示すように付与期間に重複が生じます。そのため、下段のような特例の取扱いが認められており、年5日の年休の取得義務については履行期間(今回のケースでは10月1日から翌年3月31日まで)の月数を12ヶ月で除した数に5日を乗じた日数※を与えることが可能です。

※18ヶ月÷12ヶ月×5日=7.5日

 

 

 

 

 

 

3.作成が求められる年次有給休暇管理簿

 

 現状、労務管理を行う上で作成が求められる主な書類としては、労働者名簿、賃金台帳、出勤簿があります。年5日の年休の取得義務が始まることで、今後はこれらに加え、年休を取得した時季、日数および基準日を従業員ごとに記載した「年次有給休暇管理簿」を作成することが義務付けられます。なお、この年次有給休暇管理簿は、労働者名簿または賃金台帳とあわせて作成することも認められており、作成後は3年間の保存義務があります。

 

 

 

 

 [2]のとおり、年5日の年休の取得義務については、従業員が自ら取得したものや労使協定による計画的付与で取得したものは5日から除いて考えることが可能であることから、この計画的付与の導入を検討される企業もあるでしょう。年休の計画的付与の方法としては、以下の3つの方法が挙げられます。

 

(1)企業全体等の休業による一斉付与

 企業全体で年休を取得する日を決める方法で、製造業など一斉に休みにした方が効率的な業態に向いている方法。

(2)班・グループ別の交替制付与

 企業全体で一斉に休みを取ることが難しい業態で、班・グループ別に交替で年休を与える方法。流通・サービス業など、定休日を増やすことが難しい企業で用いられることが多い。

(3)個人別付与

 年休付与計画表を作成することにより、与える日を従業員ごとに個人別で定める方法。夏季、年末年始、ゴールデンウィークのほか、誕生日など従業員の個人的な記念日を優先的に与えるケースも多い。

 そして、この計画的付与を実施するためには、就業規則に計画的付与により年休を与える旨を記載した上で、労使協定を締結する必要があり、その項目は以下のとおりです。

  • 計画的付与の対象となる従業員(あるいは対象から除く従業員)
  • 対象となる年次有給休暇の日数
  • 計画的付与の具体的な内容
  • 年次有給休暇を持たない従業員の取扱い
  • 計画的付与日の変更

 なお、締結をした労使協定を労働基準監督署へ提出することは不要ですが、制度を導入するために就業規則を修正した場合には提出が必要です。

 

 

 

 今回の年5日の年休の取得義務については、取得できなかった場合、罰則として30万円の罰金が設けられています。そのため、特に年休の取得率が低い企業においては、どのような方法で5日の年休を確実に取得させていくのか、早急な検討が求められます。

■参考リンク

厚生労働省「「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」について」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322_00001.html

厚生労働省「「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の変更が本日、閣議決定されました」

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000101654_00003.html